2010年4月20日火曜日

ヒューマン・センタード・デザイン(2)

ヒューマン・センタード・デザイン(1)」からの続き。

「悪い記憶」は、どうして生じるのか?
「悪い記憶」の発生している所を突き止め、そこに具体的な手段を施す必要がある。


俯瞰的な「コミュニケーション・モデル」は、サービスの全体像を把握する上では、とても便利だが、「サービス全体として良質な記憶」を特徴づける為のコンセプトにはなり得ない。
森全体を見て、木が何か、が見えてこなければ意味が無い。
最初に知っておくべきことは、一本の木をどうやって健康的に育てることができるか?では無いだろうか。

パーセプション・モデル」の図を思い出して欲しい。


ユーザの連鎖的な行動は、「パーセプション・モデル」の「記憶層」に記録されたユーザの記憶に依存している。だから、「パーセプション・モデル」の「記憶層」とは、ユーザの記憶が記録されたデータベースのような役割を担っている。

一方、このデータベースに「記憶」が記録される直前の判断は、「経験層」で行われている。特に、「経験層」に対する考え方を決定することが、サービスのコンセプト、あるいは、サービスの方向性を決定づける、と言っても過言ではない。

大きな森の中に生えている一本の木を見るように、サービスを構成する一つの小さなサービスを考えてみると、大切なことが見えてくる。

どのような大きさのサービスであれ、すべてのサービスは、
  • 「情報的要素」
  • 「ツール的要素」
から構成されている。

「情報的要素」には、ある機能を表す語彙のようなものから、機能を解説するための文章、あるいは、商品の魅力を訴求するキャッチフレーズやコピーのようなもの、事故や事件などの真相を解明しようとする記事、ユーザ同士が情報を交換しあう会話のようなものに至るまで、幅広い情報が存在する。勿論、これに加えて、音、音声、音楽、写真、図画、表、なども、情報的要素である。明らかなことは、すべてのユーザの「満足」するような画一的な「情報的要素」は無い、ということだ。

こうした状況において、ユーザに対して適切な「情報的要素」を提供するには、それぞれのユーザが置かれた状況や文脈を解明することが、何よりも不可欠だ。漠然としたユーザ・モデルを精査することも必要だが、なぜ、ユーザが、その情報に興味を抱いたのか?を解明する必要がある。

一方、「ツール的要素」には、ボタンを押すと別のページに飛んだり、商品をカートに入れたり、パスワードを再発行したり、そうした、ある行為とそれに伴う対話的な結果が期待される。この要素を適切に開発することは、ある種の困難が伴う。なぜなら、開発者自身が自らの記憶に照らして、ユーザの「満足」が何か解っているような感覚で開発してしまう可能性があるからだ。「ツール的要素」を適切に開発するには、開発者が錯誤しないように、対象となるユーザが何をしたいと望んでいるか、明確にしておく必要がある。

「情報的要素」と「ツール的要素」。この2つの要素は、「ユーザ・ワーク・モデル」と「システム・ワーク・モデル」のそれぞれの根っこに繋がっている。だから、根本的な解決には、常に先行して「情報的要素」あるいは「ユーザ・ワーク・モデル」に取り組むことから始めるべきだ。

では、ユーザの「満足」はどのように得られるのか?

まず、ユーザに対して「情報的要素」がどのような作用を及ぼすのか、そのことを明確にすべきだ。その答えは、「経験層」が、「操作性・利便性・信頼性」に分かれていることに着目することで見えてくる。「操作性・利便性・信頼性」の3つの評価を阻む要因を見つけ出し、そのひとつひとつに対策を図ることで「悪い記憶」の発生を抑えられ、ユーザが「満足」を得ることができる条件が整うはずだ。
「経験層」を、この3つの過程に分けて評価することで、「情報的要素」と「ツール的要素」のいずれの要素に対してでも、より深く再考できる視点を与えてくれるはずだ。

さあ。これで、問題が見えてきた。

「ヒューマン・センタード・デザイン」のもっともホットで、もっとも重要な課題は、「ユーザ」と「情報的要素」の関係を解明すること。その点は、もはや疑いの余地はないだろう。

続き。

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