2010年3月25日木曜日

言語の次元

君と僕は、同じ言葉を使って話しているからきっと僕が感じたこと、思ったことを言葉にすれば、それが君にも伝わり、君と僕は思いを共有できるはず…。
自分以外の誰かと意思疎通でぶつかると、こうした仮定があまりにも無力で、無意味だと痛感する。

言語には、いくつかの次元があるように思う。

ゼロ次言語
言葉が十分に通じないような外国人との会話でも、意思疎通ができることもある。「これ」「それ」「あれ」「どれ」といった「こそあど言葉」が示す、今、会話をしている当事者が共有している空間にあるモノ(実体)の話はうまくいくことが多い。とりあえず、こうしたほとんど言葉に依存せずに会話する際、そこに使われる言語を「ゼロ次言語」と呼んでみる。

ゼロ次言語は、対象を指差すことで表すことも可能なので、言語と呼ぶべきか悩むところだから「ゼロ」としてみた。

一次言語
英語の授業を一通り受けた後、テストシーズンを迎え、英語の試験を受けると、辞書の丸覚えにも等しい、通り一遍の意味を答えさせる問題にぶつかる。試験でどのような成績を収めても、実際に会話ができるかどうかは分からない。然し、ひとつの単語にひとつの意味のような関係で成立する言語を「一次言語」と呼んでみる。

二次言語
英語の試験も、より実践的な試験になると、時事問題など現在起こっている事柄を英語で考えさせる問題が出てくる。この場合、一般的に通説とされる解釈と異なる解釈が存在することを知っていても、試験の時には、通説とされる解釈を答えとして書かないと、正解とされない。こうした問題と正解の関係にある言語を「二次言語」と呼んでみる。

三次言語
さまざまな事象を眺めて、前提の傾向や対策といった考え方をまとめることが要求される場合、広くは、企画書を制作したり、調査資料を作ったりする場合、そうした内容について議論するには、それ相応の専門的な知識や経験が要求される。言い換えれば、その言語を自由に操れていても、分かる人には分かる言語を「三次言語」と呼んでみる。

このように、次元が高くなるに連れて、現実に存在する事柄よりも、より抽象的な言語になってきていると理解してもらえるだろうか。

四次言語
実は、僕たちの使う言葉の中で、これまで述べたどの次元の言語にも当てはまらない言語が存在するとすれば、この「四次言語」だと思う。学者や哲学者が使う言葉は、僕たちの生活にどのように活かせばいいのか分からないことがある。然し、彼らは、ひとつひとつの言葉に意味を与え、それを計算式のように必要な時に持ち出しては、その言葉に込められた複雑な意味を普通に話し始める。

おさらいのつもりで、りんごについて考えてみる。

  • 目の前にあるりんご。(ゼロ次言語)
  • Apple。バラ科の落葉高木。(一次言語:辞書の定義)
  • りんごが落ちるのを見て、ニュートンは閃いた。(二次言語:通説)
  • 肉と一緒に煮込んでやると適度な酸味がつくので喜ぶ人が多い。(三次言語:料理人の経験に基づく知識)
  • APPL(四次言語:Nasdaq市場におけるApple Inc.の表記記号)

多くの人は、こうした言葉の使い分けを無意識にできているのかもしれないけど、僕は、何かについて話そうとする時、今、どの次元の言語を使うべきか、しばしば悩む。僕として、言葉が誰にでも同じように伝わることはあり得ないことを心に留めておきたい。

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